総合人間はねたとも

京都大学総合人間学部生が送る、総合人間になるまでの軌跡

議員インターシップ 感想

怪しげなDM 

「議員インターシップに参加しませんか?」

 

 ふいに届いたTwitterのDM。僕はその怪しげな誘いに乗り、人生の夏休みの夏休みを議員インターシップに捧げた。だが正直情報が少なく怖かったため、ここに体験談として載せ、1つの情報源にしてもらえたらと思う。読み物として読んでもらっても勿論構わない。

 

議員インターシップとは?なんで参加したの?

 議員インターシップとは何か。1人の地方議員の所へお邪魔し、仕事の手伝いをしながら政治の中身を知ったり色んな社会経験を積んだりしようというものだ。中でも30年後の理想の未来に向けて政策を考えるコンテスト「未来国会」がメインとなっている。このインターン、なんとこちらがお金を払う側でかつ100時間も活動しないと修了できない代物なのだが、理文系総合人間として、両方の知識を必要とする政治への興味、社会人・学生との出会いに惹かれて応募してしまった。本当は海外に行きたかったがコロナで行けず、やることを探していたのもある。いやまあぶっちゃけて言えば大学デビューを決めて彼女を作るはずが作れず暇だった。何ならここで彼女を作れないかとすら思っていた。

 

待ち受けるは泥臭さ

 こんな不純な動機が混じっていた天罰なのか、事務所のメンバーは全員京大男子。悲しみに打ちひしがれていると待っていた最初の仕事はなんとチラシのポスティング。しかもこの日の最高気温は36℃。灼熱地獄である。「こっちが金払ってるんだぞ!!!」と悪態をつかずにはいられない。どうやら僕はとんだ地獄に足を踏み入れてしまったようだ。しかしこれにはちゃんと意図があったらしく、地方政治が思われている以上に地道な作業であること、投票基盤となる事務所近辺を歩くことでその街のことを知ることができた。

 

 他にも地道な作業は続く。翌日はひたすら封筒にチラシを折り込む作業。こちらはクーラーの効いた部屋でできるだけ幾分マシであったが、単純労働には変わりなく、不満たらたら。何とか作業を終えるも、チラシの枚数が計算に合わない。封筒とチラシの枚数を揃えてから折り込む作業を怠ったためである。僕たちは封筒1つにチラシが1枚入っているかどうか秤を使って500通全部調べることになってしまった。なんでこんな面倒なことをするんだ、1通くらいどうでもいいじゃないかと思ったが、議員さんにこう言われてハッとした。「政治家自身は大勢の市民に向けて仕事をしているから1人くらいどうでもいいと思ってしまうが、市民1人にとってその政治家は1人だ。こっちにとっては500か499かでも、向こうにとっては1か0かだ。」確かにビラが届くか届かないかなど些細な違いかもしれないが、1人1人の暮らしを左右する政治家の哲学は実体験を以て身に染みた。

 

 このインターンに参加する前、「議員」と聞くと、パソコンの前で政策を練り、議場の場で演説する姿を思い浮かべていたのだが、実際の仕事は想像を遙かに超えて泥臭く、地味であった。ポスティング、郵送、街頭でのビラ配りといった5Gの時代にまさかの紙媒体での地道な広報。選挙期間外でも顔を知ってもらうために朝の街頭活動。選挙期間中は他の議員に場所を取られないように徹底的に早起きして場所を制圧。雨にもマケズ風にもマケズ1軒1軒家を訪問して投票を依頼。事務所に近所のおばちゃんが来れば悩み相談に乗り、地域に密着。こうした政治家の実態は実際に中に潜入しないと中々見えない部分であり、収穫であった。選挙で敗れれば無職という厳しい世界で生き残るため、泥道の中をかき分けて進むかのような地味な作業の連続をこなす姿には尊敬を抱かざるを得ない。

 

政治家はお金のために仕事をしてはいけない

「政治家はお金のために仕事をしてはいけない。」

 

 議員の印象的な発言の1つだ。もらえるお金は既に決まっており、仕事をして出費すればするほど減っていく。仕事をたくさんしてももらえるお金は増えないばかりか減っていくのである。だからお金のために政治をしてしまうとどこかで歪みが生じて、僕たちが度々見かける汚職などに繋がってしまう。市民から受け取った信頼を背負ったからには世の中のために働かなければならない。議員自らが給料を削減しようとする姿を見て疑問を感じていたのだが、その裏には政治家の徹底した利他の精神があった。こうした信念を持つ政治家が集まれば、国の未来は明るい。

 

俺を誰やと思ってるんや

 そして最も印象的だった発言はこれだ。冒頭で述べた政策コンテスト「未来国会」で締め切り目前で手詰まりかけた時に助言を請い、劇的に解決したことがあった。「さすがですね。ありがとうございました。」と言ったらこう返ってきた。

 

「俺を誰やと思ってるんや」

 

 その確かな自信に裏付けられた一言に痺れた。議員は身近な災難から世の中に強い憤りを抱え職を転じ政治家となった。1から積み上げたその実力と実績と誇りがその一言に詰まっているようにみえた。僕は将来こうして胸を張っていられるだろうか。30年後の理想の未来がそこにはあった。

 

議員インターシップという選択肢

 こうした様々な気づきの他、ダムを海と勘違いして生育してしまったアユの話を聞きに山道をドライブしたり(ついでに川遊びした)、未来国会の案出しのために博物館を回って久方ぶりの社会科見学をしたりと外にも度々出掛け、大変濃い時間を過ごすことができた。議員はこうした遠征のためだけにわざわざ軽自動車まで購入してくださった。圧倒的感謝である。

 

 総じて議員インターシップは金と時間をつぎ込む価値があったと僕は思う。もちろんこれは一議員の例であり、他の議員のことを詳しく知らないので何とも言えない部分はある。だが少なくとも僕は実体験に基づく濃い学びを得ることが出来た。無駄に過ごしてしまいがちな夏休みを充実して楽しめ、友達もできた(彼女はできなかった)。長い夏休みの1つの過ごし方として存分にアリだと思う。大学生の夏休みは最強なので、インターンをしても尚充分遊んだり合宿免許に行ったり旅行もできた。

 

で、お前はどうするの?

 最後に、このインターンで僕が政治家になりたいと思ったかどうかを書いて終わる。一応政治に興味がありこのインターンに参加した訳だが、結論としてはすぐに政治家になろうとは思わなかった。大きな予算を使い世の中を変えることのできるやりがいに満ちた仕事ではあれど、世の中を変えたいという強いエネルギー、徹底した利他的な精神が要求され、まだ僕にはそこまで世に尽くせないと感じた。だが、大学で思う存分好きなことをし、卒業後一定期間を経て経験を積み、世の中を変える強い動機を経たその時、このインターンで目にした輝かしい議員の後ろ姿を思い出し、政治家を志すことはやぶさかではない。

 

 最後の最後に、お世話になった議員に感謝と敬意を込めて。

internship.dot-jp.or.jp